浦和地方裁判所 平成6年(ワ)1573号 判決 1995年12月26日
原告
藤原貫太郎
被告
南保裕幸
主文
一 被告は、原告に対し、金一億二一九八万一五九七円及びこれに対する平成五年八月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は九分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決第一項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金一億四四四九万九五一八円及びこれに対する平成五年八月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、本件交通事故により受傷し、下半身不随の後遺症が存する原告が、被告に対し不法行為を理由として損害賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実
1 本件交通事故
発生日時 平成五年八月二五日午後三時三〇分ころ
発生場所 埼王県久喜市大字下早見一八九四番地四先路上
原告車 普通貨物自動車(大宮一一な三六五四号)
被告車 普通貨物自動車(大宮一一う五七六九号)
態様 原告が停車中の原告車に乗車するため同車の前を移動中、後方より走行してきた被告運転の被告車が原告車の後方に停車中の車両に追突して、同車両を原告車に衝突させ、よつて原告車を原告に衝突させた。
2 原告の受傷及び後遺症
(一) 原告は、本件交通事故により腰椎脱臼骨折、右膝解放骨折、右肋骨骨折、血胸、脳挫傷等の傷害を受け、新井病院、埼王県厚生連幸手総合病院、自治医大病院に平成六年二月二一日まで順次入院した。右入院日数は合計一八一日である。
(二) 原告の症状は平成六年二月二一日に固定し 下半身不随の後遺症が存し、右後遺症は、自動車料率査定会において後遺症一級の認定を受けた。
3 被告の責任原因
被告には、前方不注視の過失があつた。
4 損害の填補(合計三四五一万五二九六円)
(一) 自賠責保険金 三〇〇〇万円
(二) 任意保険金(大東京火災保険株式会社) 一七六万九三四四円
(三) 労働者災害補償保険金 二七四万五九五二円
二 争点
原告の損害額であり、原告の主張額は、合計一億六六〇一万四八一四円である。
第三争点に対する判断
一 入院雑費
入院期間は、前記のとおり一八一日であり、入院雑費は一日当たり一三〇〇円と認めるのが相当であるから、右期間中の合計は二三万五三〇〇円である。
二 付添費
1 入院後症状固定まで
原告の傷害の内容に照らすと、入院後症状固定までの間の一八一日間、付添が必要であつたと認められ、付添費は一日当たり五〇〇〇円と認めるのが相当であるから、右期間中の合計額は九〇万五〇〇〇円である。
2 症状固定後
前記のような原告の後遺症の内容に照らすと、原告は、生涯にわたり付添看護を要するものと認められ、証拠(甲第一四号の一ないし三、原告本人尋問の結果)によれば、原告は、症状固定時五〇歳であり、下半身が麻痺しているため用便、入浴、衣類の着脱等が自分でできないこと、もつとも上半身については障害がないことが認められる。そうすると、原告の平均余命は二八年であり、一日当たりの付添看護費用は五〇〇〇円と認めるのが相当であるから、その間の中間利息をライプニツツ方式により控除すると、症状固定後の付添看護費用は二七一八万九〇三二円となる。
(算式)五〇〇〇×三六五×一四・八九八一
三 付添人交通費及び本人の通院交通費
証拠(甲第一〇号証の二ないし一二九、一三二ないし一五四)によれば、付添人の通院交通費は三万五八七〇円であり、原告の平成六年二月二一日以後の通院交通費は一二万六九〇〇円、合計一六万二七七〇円であることが認められる。なお、甲第一〇号証の一によれば、付添人の平成五年一〇月二九日のタクシー代金として一万二三〇〇円を要し、また同号証の一三〇及び一三一によれば、原告は、平成六年八月一九日にタクシー代金として、九六〇〇円と九八五〇円を要したというのであるが、右甲第一〇号証の二ないし一二九、一三二ないし一五四によれば、右三回以外の日のタクシー代金は、殆ど二〇〇〇円位までであるので、右三回のタクシー代金は、付添人又は原告の通院のためのものであるかどうかにつき疑問があるから、これを通院交通費として肯認することはできない。
四 介護リハビリ費用
証拠(甲第一二号証の一ないし二五)によれば、原告は、二四万六四七一円を要したことが認められる。
五 車椅子費用
前記のような原告の後遺症に照らすと、原告は生涯にわたり車椅子の使用が必要であると認められるところ、証拠(甲第九号証)によれば、車椅子は一台一二万九三三〇円であることが認められ、また弁論の全趣旨によれば、車椅子は四年に一度買い替えることが必要である。そこで、車椅子は七回講入することが必要であり、その中間利息をライプニツツ方式により控除すると、左記のとおりであつて、車椅子の費用は、合計五二万三六二九円である。
第一回 一二万九三三〇円
第二回 一二万九三三〇×〇・七八三五=一〇万一三三〇
第三回 一二万九三三〇×〇・六四四六=八万三三六六
第四回 一二万九三三〇×〇・五三〇三=六万八五八三
第五回 一二万九三三〇×〇・四三六二=五万六四一三
第六回 一二万九三三〇×〇・三五八九=四万六四一六
第七回 一二万九三三〇×〇・二九五三=三万八一九一
六 休業損害
1 証拠(甲第一号証の一ないし四、第二号証の一、二、第一九号証、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨)によれば、左記の事実が認められる。
原告は、本件交通事故当時、合資会社藤原文平商店の専務であつたところ、同会社は鋳物の副資材の販売を目的とし、原告の養母である藤原千加子が社長、原告の弟である藤原繁が常務であり、繁の妻藤原政子が経理を担当し、原告の実母である高木志津子が事務を担当する同族会社であり、他に運転手を二名雇用していたが、原告が主に営業に従事し、自動車を運転して、名古屋、岐阜、大阪、岡山等に仕入れに赴き、また千葉、加須市等に製品を配達し、原告は、平成四年には年間五三三万円の給料を得ていたが、本件交通事故後は就労することができないため同会社から給料を受けていない。また、原告は、本件交通事故当時、株式会社セトウチ商会の代表取締役であり、同会社も原告の妻久美恵、及び繁夫妻が役員である同族会社で、同会社は、川口市北園町所在の賃貸一五室、店舗五室からなる藤原ビル、これに隣接する駐車場、西川口所在の一二室の賃貸マンシヨンであるグレースハイツの管理を目的とし、原告夫妻は藤原ビルの管理を担当しており、原告は、平成四年には同会社から年間一八〇万円の給料を得ており、本件交通事故後平成七年三月までは右基準による給料を支給され、その後は同年五月に右会社の代表取締役を辞任した。
2 右事実によれば、原告は、本件交通事故後、平成六年二月二一日まで一八一日間、一か年五三三万円の割合による休業損害(一日一万四六〇二円)を被つたものと認められるから、右損害額は、二六四万二九六二円である。
七 逸失利益
原告の前記後遺症によれば、原告はその労働能力を一〇〇パーセント喪失したものと認められる。そして、原告は、前記のとおり平成六年二月二一日から平成七年三月三一日までは一年につき五三三万円、同年四月一日から一年につき七一三万円の得べかりし収入を喪失したものと認められる。そこで、原告の平成六年二月二一日から平成七年三月三一日までの逸失利益は五三八万七〇一八円であり、また原告は症状固定時に五〇歳であつたから、平成七年四月一日から一六年間就労することができたものと認められるので、ライプニツツ方式によりその間の中間利息を控除すると、その間の逸失利益は、七七二七万二八〇一円であり、右合計額は、八二六五万九八一九円である。
(算式)七一三万×一〇・八三七七
八 家屋改造費
証拠(甲第八号証の一、二、第一三号証、第一五号証の一ないし一六、第一六号証の一、二、第一八号証の一ないし四、証人徳永の証言、原告本人尋問の結果)によれば、原告は、本件交通事故当時藤原ビル二階に居住していたが、右事故後室内で車椅子を使用して生活するためには不便であつたので、家屋を建築して移転することとし、その際新築家屋は原告が車椅子を使用し、下半身が麻痺している状態で生活するに必要な間取りとし及び設備を設けたもので、その内容は、ベツドを使用するために洋室を設け、浴室、サニタリー及び手洗いを通常より広げ、手洗いの中に手摺りを設け、及びそこまでの通路部分も広げ、リビングも若干広げ、扉の数を増加し、床の強度を増し、玄関にスロープを設ける等であり、新築家屋の一階の床面積は八〇・二八平方メートルであるところ、右床面積は右工事によつて約一九・八平方メートル(六坪)増加したにすぎず、これらの工事費用は、四六三万一九一〇円であり、原告は、平成六年一二月二五日までに右費用を建設会社に支払つたことが認められる。
九 慰謝料
1 受傷による慰謝料
証拠(原告本人尋問の結果)によれば、原告は本件交通事故により受傷し、多大な精神的苦痛を受けたものと認められ、前記のような傷害の内容、入院期間、本件交通事故の態様、原告の年齢その他諸般の事情を斟酌すると、原告に対する慰謝料は、二三〇万円が相当である。
2 後遺症による慰謝料
証拠(原告本人尋問の結果)によれば、原告は本件後遺症が残存することにより深甚な精神的苦痛を受けたものと認められる。そこで、本件後遺症の内容、原告の年齢等諸般の事情を斟酌すると、原告に対する慰謝料は、二八〇〇万円が相当である。
一〇 したがつて、原告の損害総額は、一億四九四九万六八九三円であり、これから損害の填補額三四五一万五二九六円を控除すると、残額は、一億一四九八万一五九七円である。
一一 弁護士費用
弁護士費用は、七〇〇万円が相当である。
一二 結論
よつて、原告の本訴請求は、原告が被告に対し一億二一九八万一五九七円及びこれに対する本件不法行為の日である平成五年八月二五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容し、その余の請求を失当として棄却することとする。
(裁判官 大喜多啓光)